2016年10月21日
「アクセシビリティセミナー2016」参加レポート
幕張メッセで開催されたCEATEC JAPAN 2016にてWAIC(ウェブアクセシビリティ基盤委員会、以下WAIC)が主催するアクセシビリティセミナーを聴講してきました。
WAICの委員長の植木真氏とWAICの副委員長の伊敷政英氏によるの2つセッションがありました。
Webアクセシビリティ最新動向 ~JIS X 8341-3:2016と障害者差別解消法~
まずは1つ目のセッション。「JIS X 8341-3」が2004年に制定されてから、今年3月の改定に至るまでの流れやお話し、その後「障害者差別解消法」や海外の最新動向の話がありました。
JIS X 8341-3:2016について
2012年にW3C勧告「WCAG 2.0」がISO/IEC 40500:2012として国際規格となったことで、日本でもこの国際規格に一致すべく改定されたものが今年2016年3月に改定された「JIS X 8341-3:2016」です。要は世界規格になった、ということですね!
実際に手にとって「JIS X 8341-3:2016」の内容を見たことがある人はいますか?と質問について挙手したのは10人前後でした。 思ったよりも内容を見たことがある人が少なかったです。(私は挙手しました!)
2016年度版として改定された部分がこちらです。
- WCAG 2.0の日本語訳の見直し
- プロセスと試験方法については参考情報として附属書という形で内容を見直して残す
- 「部分適合」の考え方をW3Cと合わせた
最近の傾向として、同じ分野やカテゴリの規格で国際規格が存在する場合は、それを日本語訳にしてJIS規格にするという流れがあるそうです。理由としては幅広い取り組みが期待できため、内容を一致させることが多いとのこと。
「JIS X 8341-3」には3つのレベルがありますが、公的機関は「レベルAA」民間企業は「レベルA」努力目標で「レベルAA」。諸外国で公的機関に求められているのはWCAG 2.0の「レベルAA」。この辺は日本と同じなのですね。
今回のセッションの中で話題として出てきたのが、「第三者によるコンテンツ」でした。
「第三者によるコンテンツ」とは、バナー広告、SNSのタイムラインなど自分で制御できないコンテンツを指します。「部分適合」が大きく変わった背景として、2010年度版での「第三者によるコンテンツ」の考え方が、制御できないコンテンツが不適合でも他が問題なければ、そのページは適合、と誤解されて認識されていたこともあり、W3Cのガイドラインと同じ位置づけになったとのことでした。
JIS X 8341-3:2016対応の基本的な進め方として、方針を作成、対象範囲を決定、その範囲を試験を実施、試験結果の公開、となっています。試験結果の公開がゴールではなく、対応する達成基準を増やしたり方針を決めて対象範囲を増やすなどして継続して対応していくことが理想です。
JIS対応をすることでWebコンテンツの品質基準が明確になり、世界基準になることでグローバルに展開する企業によっては国別対応する必要がなくなり、法律など社会からの要請に答えることができるようになると言います。より多くの利用者の利用シーンをサポートできるようになるのはよいことですね。
「障害者差別解消法」について
きっかけは国連の障害者の権利に関する条約に批准したことで国内法整備の一環として障害者差別解消法が制定され、2016年4月から施行されました。何が変わるのでしょうか?
- 障害を理由にした差別の禁止
- 環境の整備(努力義務)
- 合理的配慮(公的機関:法定義務、民間:努力義務)
合理的配慮の基本的な考え方として、Webアクセシビリティは情報アクセシビリティの中に含まれる形になっており、障害者の利用を想定して事前に整備することとあります。
しかしこれまでと異なるのは、障害者の方からのサイトの改善要望があった場合は可能な範囲で対応しなければなりません。
個人的には当事者の方からの直接要望が来ることでどう改善すべきか明確になり、より使いやすくなるのではないかなと思います。とはいえ、要望がなくても使いやすいサイトを目指していかなくてはなりませんね。
海外の最新動向
アメリカでは民間企業の間でもウェブアクセシビリティの確保、改善事例が増えてきているそうです。 制作の内製化が進み、それに加えて社内にアクセシビリティチームを作るようになってきているとか。 CSSのフレームワークもアクセシビリティが確保されたものがリリースされることが増えてきているようです。
毎年春に行われているCSUN(世界最大級のアクセシビリティの国際カンファレンス)では、Amazonによるアクセシビリティ事例紹介があったりと、Kindleなどのデバイスのアクセシビリティ強化を進めているそうです。
先進国といわれている国では、アクセシビリティの確保がW3Cガイドラインを基準に法律化で義務づけられており、 レベルAA対応が世界標準になってきているそうです。 EUでも2016年5月に各国で法整備を行って法律での義務化が決定し、今後の対応が期待されています。
Facebookでの画像認識技術の事例紹介VTRが紹介されました。実際に写真に写っている対象の単語を読み上げています。 画像の内容を聞いているご本人たちのとてもいい笑顔! やはり誰にでも同じように自分で情報が取得できるというのは大事ですね。
日本の動向について
WAICでは、公的機関と民間企業について半年に一回のペースで確認しているそうです。 47都道府県のうち方針公開は31団体、試験結果まで公開しているは19だけと半分以下なんですね。 政令指定都市の方が比率でいうと対応が進んでおり3/4が公開しています。府省等は自治体よりも対応が遅く、一番進んでいないそうです。
民間企業についても、2010年度版のままの方針で2016年度版の対応になっているところはまだ少ないそうです。 また今年の特徴として、WebサービスやWebアプリケーションについてのアクセシビリティ対応が目に見えてきた、とのこと。事例としてサイボウズやサイバーエージェントが紹介されていました。
情報取得における支援技術の進展と利用シーンの変化
2つ目は伊敷氏による、実際の利用状況や利用環境について、デモを交えてのセッションでした。
Webにアクセスする機械が多様化し、デスクトップPCとノートPCしかなかった15年前と比べて、最近は選択肢が確実に増えました。スマホやタブレットだけではなくウェアラブルデバイスや家電の画面など。
利用環境も多様化し、最近ではフリーWi-Fiがあったりとどこでもネットワークが使えるようになりました。
出先で少し作業したい時など私もカフェを利用しています。
利用環境が増えてきたといっても、音の制限や明るさによる画面の見えやすさ、通信速度などデメリットはまだまだありますね。
視覚障害の場合は紙から情報がとれないのでALS(筋萎縮性側索硬化症)などの難病で外出が困難な方にとっては、Webは外とのリアルな接点となっており、 商品購入やイベント申し込みを完了できるなど、サービスを最後まで完了できるが大事とのこと。
実際の利用状況や利用することでの生活への影響について
総務省で視覚障害者のウェブページの利用方法を紹介する動画があるそうで、その紹介がありました。
Web検索から目的の情報に到達するまでや制作時において配慮すべき点をピックアップして説明しています。
実際の使い方が見れる大変貴重な動画ですので、みなさんもぜひご覧になってください。
全盲の方は専用の点字ディスプレイやページを読み上げるスクリーンリーダーまたは音声ブラウザ、基本的にキーボード操作をして利用。弱視の方は見え方が様々なため、画面拡大機能、色反転機能やハイコントラスト機能、音声と併用したり、みなさんそれぞれが使いやすいものを選んで利用しているそうです。
伊敷さんご本人の見え方は全体的に白っぽくぼやけて見えている状態だそうで、色反転と文字拡大を使用してWebサイトを閲覧するそうです。
iPhoneやiPadのデモ
拡大機能と色を反転して利用しているそうです。あまりApple製品の反転を見たことがなかったので新鮮でした!
反転もかわいいです。
ここで意外だったのが、反転すると写真もネガポジになってしまうとのこと。写真を見る場合は反転を元に戻して写真を見るそうです。この操作をショートカットに設定して使いやすくカスタマイズしていました。
インターネットを利用することでかわったこと
初めて行く場所はどこに何があるかわからないことが多いですよね。私もベビーカーで子供と出かける際は行き先や最寄り駅にエレベーターがあるかなど入念にチェックしてから出かけます。
初めて行く場所を調べる、それは視覚障害者の方に限らずみなさんも同じではないでしょうか。
外出時に行き先のフロアマップや駅構内の地図を先に把握することができたり、出先でも地図が見れるようになったことで、外出に対する心理的なハードルが下がったそうです。
- 買い物はサイトで商品情報を確認したり比較したりと事前に調べることができる
- 外食時に公式アプリを使用することで事前に新商品や季節限定のメニューが確認できる
- 電子書籍の登場で、新刊が発売されたら、点字翻訳や拡大鏡なしでもタイムリーに読むことができるようになった
- LINEなどでも音声ブラウザで使用することができる
- アプリでスマホから入力できるようになり、歌詞を表示しながら歌うこともできる!
- 教育現場で弱視の子たちは教科書をタブレットの中に入れて使用するケースが増えている
これだけの変化があり、生活の中でできる範囲が少しずつ広がってきているのがわかりますね。
新しい取り組み
新しい取り組みの紹介がいくつか紹介されました。
- ウェアラブルデバイス1:Apple Watch
- 朦朧の方が使った体験談(ブログ)で、腕につけていることで、アラームで気付くことが可能に。外出で振動で左右を教えてくれる
- ウェアラブルデバイス2:ナビゲーションベルト
- ドイツの会社が研究開発しているナビゲーションベルトで、振動モーターがついており、振動で方向をしめてしてくれるもの
- ウェアラブルデバイス3:メガネ型デバイス
- やはり手になにも持っていない状態がいいので今後に期待したい!とのこと。映画の世界のようで私もメガネデバイスには期待しています!
- Seeing AI (Microsoft)
- 物体認識、AIの技術を使用したアクセシビリティ向上が進んでおり、カメラで撮影したものを画像を解析し、何がうつっているかを音声で案内するもの
インターネットがあると、人の手を借りず自分で調べたり、作りなおしてみる、というタイムラグがなくなり、リアルタイムで情報を取得することができるようになったといいます。人に頼むことでプライバシーの問題があったが、それが解消されつつあり、いろんな選択肢が増えてきたことで選べることのうれしさを感じるそうです。
まとめ
JISや障害者差別法などそれぞれで考えるのではなく、Webアクセシビリティとはできるだけ多くの利用者にいきわたるよう、正しくブラウザに情報を伝えなくてはならなりません。またそれを持続させていくことが重要だと改めて感じました。たくさんの事例の紹介や貴重な実際の利用状況をみせていただけたのも大変勉強になりました。
アルファサードのWebアクセシビリティの取り組み
弊社ではWebアクセシビリティ向上への取り組みとして、無償ツールの提供の他、Movable TypeやPowerCMSのプラグインとしてJIS X 8341-3への適合を支援する PowerCMS 8341 の開発や提供を行なっています。今後もよりよいWeb、誰もが利用できるWebの普及に微力ながら貢献していきたいと思います。
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