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2017年07月05日

「アクセシビリティ法は社会をいかにして・どのように変えてきたか」参加レポート

先日行われた「アクセシビリティ法は社会をいかにして・どのように変えてきたか」というシンポジウムを聴講してきました。

講演「アクセシビリティ法をめぐる世界の動向」

まずは G3ict (*1) という組織に所属されているジェームス・サーストンさんによる講演。海外の方から直接お話しを聞ける機会は珍しく、大変貴重な機会でした。

世界の動向その1:アクセシビリティポリシーを導入するも適用が困難な状況

活動の一つとして、障害者権利条約(以下、CRPD )(*2)署名国に対して導入結果を調査しているとのことですが、アクセシブルな政府のサイトは半数以下、電子書籍サービス、教育機関での支援技術の導入、テレビの音声ガイドなど、まだまだ対応が進んでいない部分が多いそうです。
また、新しく法案を作っても、適用が困難という理由で導入できていない国が多い、ということでした。

世界の動向その2:アクセシビリティ市場拡大と新しい法案制定

障害者当事者とその家族を含めると35億人近くになり、そこには大きなビジネスが潜んでいるともお話ししていました。オリンピックやワールドカップによる障害者支援が注目されて始めています。
高齢者の人口増加や消費者側も「使いやすさ」「アクセスしやすさ」を求める傾向にあることでアクセシビリティの重要性が増しており、市場は拡大しているそうです。

ヨーロッパでは ATM、スマホ、電子書籍などにも適用できる EU 加盟国には適用義務のあるアクセシビリティ法制定の動きがあり、オーストラリアでは新基準として「 ICT 製品、サービスの公共調達に適したアクセシビリティ要件」が作られています。
カナダでは人権委員会が受け付けた意見に関するものから作られた法案「障害のあるカナダ人法」が2018年にできるそうです。

アクセシビリティ普及のカギは「公共政策」

アクセシビリティの普及として公共政策の中でも調達政策が重要である、とおっしゃっていました。
政府がアクセシブルなICTを利用した技術の購入を求めることで企業間が競争しはじめ、アクセシビリティの技術を安価で提供できるようになる、とのこと。
アメリカのリハビリテーション法第508条(*3)のような法律があると、企業がアクセシビリティに注目し、結果として政府のサービスの使いやすさ向上、障害者の雇用促進効果も得ることができます。このような法案をメキシコやインド、ヨーロッパでも作り始めているということです。

ジェームス・サーストンさんはアクセシビリティ普及のための重要な7項目をあげていました。

  1. 市民社会の取り込み
  2. アクセシビリティ市場の支援
  3. 政策の実施
  4. 障害者への意識向上
  5. 世界中の様々なアクセシビリティ技術の活用
  6. 国レベルだけではなく地方レベルの政策
  7. 公共調達がもっとも効果的

講演「国連障害者権利委員会は何を求めているのか」

次は国連障害者権利委員会委員を務める石川准さんの講演。年に2ヵ月程ジュネーブに滞在(!)し、委員会に参加されているそうです。
国際連合の障害者権利委員会はCRPDの実施状況を点検、各国に勧告を出しています。

各国への勧告、カナダには期待を込めた強い勧告

カナダは新しい法案の制定を進めていて、公用語であるフランス語字幕や音声解説、司法における情報保障の確保、手話通訳者の技術向上、難民への情報保障の充実といった内容が新法案に入っています。これらの内容をアクセシビリティ基準で再検証するように求めて、より強い勧告をだしたそうです。

その他に選挙公報へのアクセスや選挙方法におけるアクセシビリティの確保なども例にあげられていました。先日の日本の選挙でもアクセシビリティがキーワードにあがっていたこともあり、大変興味深かったです。

日本の情報アクセシビリティ事情

日本の問題として障害者対策は根拠となる個別法がないため情報通信のアクセシビリティは弱点である、とおっしゃっていました。たしかに障害者差別解消法が制定されましたが「合理的配慮」をするだけで法的拘束力はありません。それに代わって総務省から出ているみんなの公共サイト運用モデルや放送のアクセシビリティに関する指針などがどれだけの効果があるのか、注目しているそうです。

生活に密着したものとしては、銀行のATMなどは整備されつつありますが、電子申請やウェブサイト、アクセシビリティ政策がとられていない電子書籍についてはまだまだ課題があるようです。

一番印象的だったのは、映画には基本的に字幕が付与されている、ということ。上映館の判断で表示されていないそうです。思えば DVD、Blu-ray では選択できますね。また諸外国ではAR技術を使って見たい人だけが字幕を見られるようにすることもできるそうです。これはぜひ日本でも導入してほしいですね!

パネル討論

パネル討論会では当事者の現状の課題や問題を各連盟や連合で理事などをされている方たちを通してお話しをきくことができました。

現状の問題

テレビでの速報や緊急情報のテロップ表示に対しての音声解説がないので内容が把握できない、緊急時や災害時の放送では字幕情報がないので情報を得ることができないといいます。また手話による災害時の情報受発信やテレビ中継などに多くの課題があります。災害時など命に関わる問題もあり、軽視はできないですね。

以前いた会社での同僚の情報保障としての要約筆記の経験は私にもありますが、手話通訳となるとすぐにできるものではなく、需要が増えてきているにもかかわらず人材不足なのだそうです。

また盲ろう者の場合は視覚障害から盲ろうになった場合と聴覚障害からなった場合で情報の取得の仕方が異なるというお話を初めてお聞きました。また盲ろう者の場合はコミュニケーション、移動、情報取得の困難という問題があるが、現在では視覚障害者と同じ支援のみ受けているそうです。視覚障害だけではないので、点字ソフトやを追加で購入するなど充分な支援が受けれらていないようです。

今後について

アクセシビリティの周知のため、情報アクセシビリティフォーラムを開いたり、全日本ろうあ連盟は情報アクセシビリティ法のガイドラインを作ったりしています。またアメリカでは教育用DVDに字幕がないものは納入できないなどの政策があるそうで、このような取り組みはぜひ日本に取り入れてほしいですね。

まとめ

印象的だったのは、諸外国のアクセシビリティ政策により対策の取られた電子書籍を読むことが可能になっている、というお話があったこと。日本に限らず諸外国の技術を試してみたり使うことで改善するものあり、積極的に導入していくことも必要なのだと感じました。

新しい法案が出来たとしても、導入して市民に浸透するまでかなりの時間がかかることを改めて知らされました。アメリカやカナダは日本以上にアクセシビリティの普及が進んでいる印象でしたが、技術面も法的な面も含めてかなり日本の先をいっていること、法律になった場合の効力がここまで差として出るのかということを改めて感じました。また、あまりなじみのないメキシコやインドの話が聞けたことも大変有意義な時間でした。

用語の解説

G3ict (*1)
国際連合の支援を受けて、障害者権利条約( CRPD )に関わる活動や世界各国の政府や産業界、市民社会と連携、協働している。
障害者権利条約 (*2)
障害者の人権及び基本的自由の享有を確保し,障害者の固有の尊厳の尊重を促進することを目的として,障害者の権利の実現のための措置等について定めたもの。
リハビリテーション法第508条 (*3)
アメリカ合衆国の法律。障害のある従業員や一般市民が政府機関の情報にアクセスする際に、障害がある、ないに関わらず変わらず操作できるようにしなければならないと定めたもの。

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